いったい、どれくらいになるだろうか。
最初は、海外渡航の多い仕事に就いているクリエイティブな職種の人たちから。その後は、文化に敏い雑誌の誌面から。あるいは街の小さなカフェや雑貨店の店先から、この耳慣れない土地の名前が聞こえてきたのは。曰く、「10年ほど前から、地価が高騰するシアトルやサンフランシスコから若いアーティストやクリエイターたちが移住してきて、面白いことが起きている」。
クリエイターたちが集い出した以上、そこに「ものづくり」の風が吹き始めたことは「必然」と言うべきだろう。街にはアトリエやスタジオ、ファクトリーが溢れ、家具や雑貨、アパレルはもちろん、アートから食まであらゆるものが日々、この街から生み出され始めた。
昨年末にダウンタウンにオープンしたばかりの<MadeHere PDX>は、ここポートランドで作られたものだけを売るセレクトショップ。創業スタッフのステファニーは「周りにものづくりをしている友人がたくさんいたから」と開店の経緯を説明する。当初40ほどだったベンダーの数は日々増え続けていると言う。彼女は、この街のクリエイターたちの特徴として「コストをかけずに小さく始めて、自分の目の届く範囲でものづくりを行っている」と説明する。そうした”ローカル目線”のものづくりが今、世界的な注目を集めているのだから面白い。またもうひとつの重要なポイントは、「”手仕事”を通じたクラフトマンシップに再び注目が集まっている」ことだと言う。そこには、この国で一度は失われてしまった技術も多く含まれている。
レタープレス(活版印刷)などのプリンティング工房を営むユニット<キーガン&ミーガン>は、ヴィンテージな機材を廃業する印刷工場から引き取り、新たなアイディアを加え使い続けている。そう、彼らは過去のアナログ的遺産を再生するだけの復古主義者ではない。
レザークラフト集団<レッドクラウズ・コレクティブ>がナチュラルな鞣しと丁寧な縫製によって作り出すiPhoneケースは今やポートランドの大ヒットアイテムだ。
<シーシー・モーターサイクルズ>はカスタムバイクとコーヒーショップを融合させる、これまでにないユニークな形態の店を定着させた。
彼らすべてに共通するもの、それはイノベーションを求めるフロンティア・スピリット。ローカルに向かうことでグローバルに支持され、手仕事に回帰することで先進的な価値を切り拓く。そんなものづくりのダイナミズムが、この小さな都市の隅々にまでみなぎっている。