“自分らしさ”を大切にする文化の育て方

エースホテル京都×紙カミソリ®コラボレーション対談

“自分らしさ”を大切にする文化の育て方

昨年4月22日のアースデイにおけるタッグから丸一年。この春、貝印とエースホテル京都との2度目のコラボレーションが実現しました。今年は同ホテルと新風館が共同で開催する「アースウィークエンド2025」をサポート。ポップアップイベント期間中、来場者やホテル宿泊客にロゴ入りのオリジナル紙カミソリ®を配布し、その魅力を伝えました。

#目指すのは“いかに新しい価値を作れるか”

#目指すのは“いかに新しい価値を作れるか”

――紙カミソリ®はこれまでアーティストの横尾忠則氏をはじめ、〈ヘラルボニー〉や〈VOGUE CHANGE〉などとタッグを組んできました。エースホテル京都も同様に多彩なコラボレーションを展開していますが、パートナーを選ぶ目線はどのようなポイントなのでしょうか?

池内志帆さん(以下敬称略):エースホテルというブランドの中で、いかに新しいものを作れるかですね。京都はアジアで唯一のエースということで、ありがたいことに色々なお誘いを受けるのですが、基本はアメリカの本部との電話会議でスクリーニングして、厳密な審査を経た上で決定します。

鈴木曜さん(以下敬称略):“京都らしさ”は意識していますか?

池内:京都には何百年も続く伝統工芸の職人さんがたくさんいますが、彼らと単純に何かしましょうというのはないですね。むしろ逆で、海外のアーティストを呼んでインスパイアされたものを展示したり、ワークショップにしちゃったり。昔から京都の街は新しいものを独自の文化として取り込み、発展してきた歴史があります。その変遷を、私たちは色々なコラボレーションで表現している気持ちというか。

鈴木:京都って新しいことにチャレンジしている老舗が多いですね。

池内:若手や中堅の人たちが手を繋いでプロジェクトを立ち上げて、日本の素晴らしい文化を海外に持っていく流れもあります。でもそういう日本の良さって、中にいると気が付かなかったりしますよね。海外出張から帰ってきて、「コンビニフードが美味しい」って実感するみたいな。

#日本と海外の働き方の違いの鍵は自己肯定感?

#日本と海外の働き方の違いの鍵は自己肯定感?

――鈴木さんはスウェーデンにバックグラウンドをお持ちですが、日本との違いという目線で何か感じたことはありますか?

鈴木:スウェーデンはとても環境意識の高い国で、資源的には化石化燃料には乏しいけれど水が豊か。そういう意味では日本と似ているかもしれません。でも住んでみると、彼らのライフスタイルとか仕事の仕方は全然違いましたね。「会社に居ればいいってもんじゃない」というのがあって。

池内:ヨーロッパの人たちって、オンとオフの切り替えをきっちりするから、びっくりしますよね。

鈴木:こっちは「やばい、デザイン納めなきゃ」って必死なのに、チームのみんなは普通にバカンスに行ってるという。

池内:あるあるですね(笑)。

鈴木:忽然といなくなる(笑)。仕事の中でもオン・オフを区切っているというか。オフィスが大きな屋敷一棟借りだったのですが、階段の踊り場で社長がインストラクターになって、みんなでヨガをやったり。僕は体が硬いからジョインはしなかったのですが。

――働く人たちの立場が日本より対等だということでもあるのでしょうか?

鈴木:うーん、それ長年悩んでいるのですけど……。多分、自己肯定感が高いんだと思います。

池内:あと、みんな褒め上手。

鈴木:そうですね。そのどちらもが相まって、組織として自分の言いたいことをきちんと言える環境になっていて、他の人の意見を肯定から入る。そのあたりの文化が日本とは若干異なるのかもしれません。

池内:日本だと上司の言うことは絶対とか、役職により明確に線引きされますよね。特にホテル業界、とりわけ調理の世界ではそれが強い。

鈴木:「Oui, Chef」の世界ですね。

池内:もちろん規律は必要です。でも一方で、若い人たちも色々なアイデアを持っているのだから、それを上に言える環境を作っていかないと、組織って硬直してしまいますし。

#“ファミリー”にとって風通しのいい環境を作る

#“ファミリー”にとって風通しのいい環境を作る

池内:アメリカの本部の人事が作った従業員ハンドブックには、エースホテルは「みんなが自分らしく、きちんと意見を言える」場所であるべきと書かれています。でもそれをそのまま日本でやっても、なかなか上手くいかないじゃない?

鈴木:言語的な難しさもありますよね。英語圏では「おはよう」も「おはようございます」も「Good morning」で同じだったりしますし。その点、日本は敬語や丁寧語があって、日常的に上下関係を感じざるを得ないというか。

池内:だからこそ、我々は各部署のミーティングや幹部会を通じて、頭ごなしに否定せずに意見を出し合い、回していける組織力を作る根回しをしています。貝印さんはそのあたり、どんな感じですか?

鈴木:とても働きやすい会社です。人事方針に「KAI FAMILY」という考え方があり、従業員を家族のように扱うことを基本としているので。

池内:うちも一緒! 「エースファミリー」ですから。

鈴木:上下というより、同じ箱の中にいる感覚が強い。

池内:社内では役職で呼ばれます?

鈴木:いつも下の名前にさん付けですね。鈴木本部長なんて呼ばれたことないですし、社長も「ヒロさん」って呼ぶくらいなので。

池内:エースも似ていて、全員ファーストネームでしか呼ばないんです。私だったら志帆さんとか、志帆GMとか。そのせいで、他社の方にスタッフを紹介するとき、苗字を覚えていなくて焦ることもあるのですが(笑)。

鈴木:僕も鈴木って呼ばれると、僕のことじゃないような気がしちゃいます。

池内:エースのサービスには「フレンドリープレイス」という概念もあるのです。呼びかけ一つで親しみやすさって伝わりますから、大切にしたいカルチャーです。

#働く人の個性が、唯一無二の空気を生み出す

#働く人の個性が、唯一無二の空気を生み出す

――フレンドリーさにも通じるのですが、エースホテルと貝印、どちらにも共通した要素として遊び心だったり、プレイフルさがあるような気がします。

池内:それはきっと、私たちが遊び人だからですね(笑)。

鈴木:まさに(笑)。でも「オンりながらオフる」、遊びながら仕事をする考え方って、大事ですよ。さっき話したスウェーデンの人たちだって、物理的にはオンとオフを分けていても、精神的には曖昧になっているはずなんです。家族と過ごす時間が、結果的に仕事に役立つみたいなこともあるだろうし。僕は、そういうオン・オフの線引きが壊れている人の方が、新しい価値を生み出せるんじゃないかなって思っていて。ただしその壊れ方が問題で、楽しんでないとダメ。

池内:よく分かります。

鈴木:僕は海外出張に行ったら空き時間に美術館も、ミシュランのレストランも行きますけど、それが仕事で料理のツールを作ることにつながるかもしれない。モノやサービスを提供する身としては、そのあたりをもっと遊んでもいいのかなと。

池内:組織の雰囲気や場のバイブスというのは、建物やインテリアだけでなく、そこで働いている人が一緒に作っていくものですからね。その意味では私も含め、スタッフが一番楽しんでいるかも。仕事だけど、プライベートも半分入っちゃってるみたいな(笑)。

鈴木:エースのスタッフって、みんなエースが大好きですよね。

池内:エースが大好きな個性の集まり(笑)。ファッション業界とか、ホテル経験が全くない人が転職してきたりするんです。「エースが好きなので、どの部署でもいいです!」って。面接で将来の夢を聞いたら、「海外でダンスをやりたい」っていうダンサーの子もいたし。

鈴木:なかなかユニークですね。

池内:最終面接にへそ出しで来た人もいて(笑)。そこまで突き抜けたのはさすがに初めてでしたが、リクルートスーツで来る人はまずいないですね。というか、就業に関するガイドブックに、悪い服装の例としてスーツ、ネクタイ、パジャマって書かれてる(笑)。

鈴木:いやー、最高だな。

池内:創業者のアレックス・カルダーウッドは、エースホテルは「ホテルであって、ホテルじゃない」と語っています。いわゆる宿泊場所ではなく、アートプロジェクトなのだと。私たちは常々「唯一無二」の存在でありたいと思っていて、それは個性を受け入れて、一定のルールのもと、みんなが楽しく、自分らしく過ごせる空間であるべきという大前提のもとに成り立っているんです。

――貝印のアイデンティティとして、鈴木さんが意識しているフレーズやスローガンのようなものはありますか?

鈴木:僕、最近会社ミッションを新しく書いてリニューアルしたんです。そのプロセスで色々な言葉が思い浮かんだのですが、最後に残ったのが「切れ味とやさしさ」で。切れ味には「切れ味鋭い視点」といった抽象的なニュアンスも含め、切れ味を司るという意味を込めています。

池内:素晴らしい!

鈴木:「切る」という行為は、僕らの文化を豊かにしてきました。少し間違うと怪我もしますが、うまく使えば人々の暮らしが便利になるし、社会が美しく発展する。その上で鍵となるのがやさしさなのかなと。刃物で人を傷つけないための安全性の面もそうですし、従業員同士も優しくあるべきという。

池内:人ですよね、業種に関わらず。会社を作っているのって結局人だから。

鈴木:このミッションが出来上がるまで一年もかかったのですが、貝印とは何なのかを深く考えるためのいいきっかけになりました。全員が必ずしもクリエイティブなマインドを持っているわけではないかもしれないけれど、みながやさしい。これが企業文化として明治大正の頃からずっと続いてきた、守るべき財産なのだと思っています。

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